木造の防音設計そのものが、大学の建築学科や大学院に存在しないので、卒業して会社に入ってから勉強するかしかないんです。
ところが、木造の防音室どころか、一般住宅を含めた木造建築の音響・防音を専門にしている業者そのものが、取引先に聞いても知らないし、ネットで検索したり、専門書を調べてもない。
そこで、独学で木造在来工法や伝統的建築の中での実例を調べる(現在も随時調べ続けていますが)ことから始めました。
防音対策には、「遮音」「制振(防振)」「吸音」この3つの機能を必要に応じて組み合わせることが基本であることが分かりました。
そして、木造は適度な遮音と吸音効果そのものを保有している構造である。それが特長なんだということが、担当した現場での体験と、実在する木造建造物に触れてみて理解できました。
木造防音とは、在来工法など従来の構造物の特長を活かすことが重要な設計・施工手法になると確信したのです。
ピアノ教室に必要な要件は、グランドピアノと生徒が座れる椅子やテーブルなどの家具を配置するスペースを確保すること、近隣へ迷惑にならないように防音性能を確保すること、練習にふさわしい音響を創出することです。
木造在来工法は、天井裏や壁内部・床下空間を活用した制振補強や吸音層の確保により、遮音性と良好な音響を構築できる可変性に富んだ構造です。将来の間取り変更にも対応できます。
*梁・柱など軸組工法の利点です。構造用合板などによるパネル補強や梁・柱の軸組補強も木工事によって対応できます。
ピアノの音響特性に木造はマッチするので、防音材や無垢材などを組み合わせることによって、比較的薄い構造で防音効果を向上させることができます。ツーバイフォーなどパネル工法のような共振が起こりやすい構造に比べると、新築は勿論、リフォームによる改修によって改善できる点が木造軸組在来工法の最大の特長です。
ピアノ防音室に最も適した建物は、木造在来工法であると言っても過言ではないと思います。
→参照ページ:木造軸組在来工法のピアノ室
また、薄い防音構造は比較的狭い部屋に適応でき、建物の耐久性を損なうことがありません。建物全体の通気性を確保し空間を有効に活用できます。
木造の通気をなくしてしまうと、建物内部に湿気がたまり寿命が短くなるので、遮音構造と通気構造は共存しないと意味がありません。
ですが、床下や壁内部に換気配管やコンプレッサーのような設備を埋め込む機械式換気・通気工法はマイナスです。
音の新たな抜け道(空気音、固体音)となり、音楽用の防音室そのものが成立せず、難易度とコストを、いたずらに引き上げる工法になります。
*しかも設備が故障すると、建物全体の換気・通気が機能しなくなります。
従来型の軸組工法、壁の通気胴縁、床下換気工法は、将来のリフォーム・改修工事がやりやすく、部分的な補修や防音対策などの追加が容易です。構造柱や梁などに緊結される軸組に構造補強パネルなどを施工することも出来ます。
*天井裏、壁内、床下における空気層や吸音層は通常の可聴音の減衰効果が期待できます。
*むしろ、適切な吸音材を活用することが限られた空間を効果的に生かします。
木造軸組在来工法は、劣化状況に応じた補修・リフォームによって寿命を延ばし、可変性に富んだ構造を維持できます。
木材そのものが遮音性と吸音性を兼ね備えた素材ですので、この特長を活かすことが、より良い音楽防音室(ピアノ、ヴァイオリン、和楽器、オーディオなど)の音響及び遮音構造を設計・施工するための最重点項目です。
ただし、用途に応じた構造的な補強は、新築、リフォームの各段階において適正に計画することが木造を活かすことにつながります。
比較的小規模な一般木造住宅では、分厚い過重量の防音施工はできません。
防音室を造っても、ピアノや家具などが配置できないほど空間を狭くしては本末転倒です。それに過重量になると建物の軸組やボードなどがゆがみます。
そこで、比較的軽量で薄いコンパクトな設計・施工が要求されます。
また、音楽室(ピアノ教室など)の場合は、音響が重要ですので石膏ボードや遮音パネルを多用する施工はマッチしません。反射音が強くなり音響が悪化する割には、音漏れが目立つ周波数帯が発生します。
木造防音室には、木材製品と比較的薄い防音材を組み合わせる工法が望まれます。質量則を超える相乗効果を生み出す防音が必要です。
以上の諸点から見て、「木造防音」は特殊であると思われるのかもしれません。
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